明けましておめでとうございます。佳き年になりますように。

明けましておめでとうございます。佳き年になりますように。
浅葉野に 立ち神さぶる 菅の根の ねもころ誰ゆゑ 吾が恋ひなくに
[柿本人麻呂歌集]
「諸行無常」と聞けば、教科書に載っていた二つの作品を真っ先に思い出すのではないでしょうか。
1.平家物語「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の・・」
2.方丈記 (鴨長明1212年)「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮ぶ・・」
どちらの作も鎌倉時代(1185-1333)成立と言われています。やや悲哀のある響きを併せもっていて厭世観がにじんでいるように感じていました。
ところが、柿本人麻呂歌集出の下記の万葉歌は洗練しシンプルで明快簡潔。
無常を意図しているが醒めた目であり、冴えているのが良い。無常を詠む場合、回りくどいのは気に障るのでこのような詠みは好印象です。
巻向の 山辺響みて 行く水の 水沫の如し 世の人吾等は (万葉集7-1269)
(まくむくの やまへとよみて ゆくみづの みなわのごとし よのひとわれは)
しかも「平家物語」や「方丈記」成立の500年前に詠まれた和歌であり、この二人の作者は、この和歌を下敷きにして敷衍したのではと思えて参ります。
ですから、現代の教科書にも人麻呂の7-1269を是非とも併載して欲しいものと思います。
このように簡潔、シンプルな表現は上代からの日本人の持つ美意識であり、近代の足し算ばかりの商品と一線を画す引き算の美があります。美しく簡潔な作品に親しみ囲まれていると陰翳を感知する豊かな感受性が獲得できそうに思えてきます。
人麻呂はこの「無常」を詠んだ和歌の故地で「希望」を詠むことも忘れません。
巻向の 痛足の川ゆ 往く水の 絶ゆる事なく またかえり見む (7-1100)
穴師川の流れに乗せた「の」と「ゆ」の3音を僅かの時間差で出現させながら「ゆ」音が効果的に耳に残り流麗な律動を作り出しています。
令和2年、7/16朝5時にタマゴ茸の白い幼菌の発生を見つけその後4日間の生育を写真に収めました。その成長の様子にほのかな歓喜さえ覚えて来ました。
白い「つぼ」の頭部から顔を出した赤色の傘は半日の間にみるみる成長します。
動画を観るような感覚になります。温度、水分、光の条件が揃うと怒涛の勢いです。
このように健やかに速やかに成長する菌糸体は虫も付き難く伸びやかで美しい。
これはヒトにも言えるかもしれません。生育期にストレス無く健康的に育てたいのは、茸の生育からも想像されます。あと、土壌と環境も大切です。
7/19の夕に採取してタマゴ茸のパスタに料理しました。
傘の赤オレンジ色がパスタに絡まり食欲をそそります。うーん美味!
採りつくさないよう、胞子の拡散と来季の為にもいくつかの茸を残してきました。
あしひきの 山川の瀬の 響るなへに 弓月が岳に 雲立ち渡る (万葉集 7-1088)
柿本人麻呂歌集出の万葉集1088の詩には雄大でかつ澄んだ瀬音と雲や蒸気の動きまでも感じさせる文学史上の白眉と感じざるを得ません。偉大な詩です。1300年経てもなお現代人に感銘を起こさせる。時の試練を超えて現代に生き残っていることの驚異。賀茂真淵や斉藤茂吉、梅原猛氏に動機を与え続ける事実に言葉の持つ力と大切さを痛感いたします。日本の宝です。
あまりに雄大な印象ゆえに2000m超えの山並みと感じてしまうのですが、海抜は低く三輪山467m、巻向山で567mです。「たたなずく青垣 山隠れる」とはこのような地域を指すのかと納得させられます。アルプスのような険しい岩肌ではいけないのです。
やまとことばの特性にも気を配った韻律、音の運びの心地よさ。
たった三十一文字で31音なのに読み手に清らかな川の音(眼の前)から弓月が岳の山頂(遠景)に視点を移動させ雲の上昇気流を眺めている様。
他の和歌を見れば古代にも巻向山は存在していて、言葉の創造者である人麻呂は巻向山から昇る弓の形をした月をみて「弓月が岳」と例えたのではないでしょうか。試に、
あしひきの 山川の瀬の 響るなへに 巻向山に 雲立ち渡る
と詠んでみますと「弓月が岳」の字句が極めて秀逸であることが判ります。
「響るなへに」と「響」を当てていることで瀬音も引き立てます。
弓月が岳は由槻や斎槻とも表記されるので古代には槻の樹(けやき)が林立していたものと想起されます。日本固有種であり大木ゆえ古民家では大黒柱に使われてきました。
そこで詩歌の詠まれた故地、弓月が岳の自然環境と産土神に触れてみたいと思い立ち、桜井市のボランティアガイド長をされた福本氏に候補地をガイドして頂きました。
2017年3月に「夏至の大平」、6月に「巻向山」に登拝しました。
登拝前には穴師坐兵主神社と十二柱神社に献饌、参拝を済ませました。
記憶に残る体験でした。巻向山へは途上、磐座を経由しました。
磐座祭祀ですと、出雲系の神々を祀っていますし、十二柱神社の住所は桜井市出雲なのが興味深い。
人麻呂の素晴らしい詩に感応していますと美しい言葉が響き、ものを観察する眼識までも磨かれ感性のヴァ―ジョンアップが図られるように思えてきます。この後も人麻呂作歌についての感慨を投稿してみたいと思います。
原文 足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡
藤原先生には25歳頃に彫金学校で始めてお会いしました。
当時は鏨を使ったメレーダイヤの彫留めを習うためのクラスでしたので彫金の伝統や様々な技法のあることも何も知らず、早くダイヤを留めてみたいと思ったものでした。
左手にタガネを持ち、右手にはオタフクといわれる小さなハンマーでタガネの頭を叩きながら彫るのですが、タガネの頭の芯にハンマーが当たらず時には空ぶりになったものです。タガネ先端の彫り具合を注視しているので、ハンマーは自然にタガネの芯を叩けないとなりません。
1年半を過ぎても四分タガネの直線彫のみの授業でした。私は彫金を学ぶには歳が行き過ぎていたのでこの機会を逃がすと後が無いと思い、勤務後も毎晩部屋で銅板に彫り続けました。
2年コースもあと半年に迫る頃15人の生徒の中にミキモトに勤務されていた大御所の女性が声を上げ、早く留めを教えて欲しいと言い出しました。
それでようやく彫留めに移っていった記憶です。ですからクラスでは実践の作業を身に付けるところまでは達しなかったと思いました。
クラスの終了後は自身で工夫せざるを得ず曲がりなりにもタガネが使えるようになった、と思うのは5年後位です。勤務していた諏訪精工舎で宝飾時計製作の黎明期にこの学びが生きました。
今となって藤原先生の毎回直線彫りの意図が判ります。立体的な形状にもタガネに追従してオタフクが正確に当たることの重要さが。
後になって知ったことですが、藤原氏は秋田県出身で伝統工芸士であり、中学生のころからこの伝統彫金に関わってこられていたのですが、クラスでは一言も話されませんでした。
私との接触の中で時計に興味を持たれた様子で亡くなられる1年前に処女作の万葉時計を観てもらいに伺った折の藤原氏の伝統工芸技法を駆使した提げ時計の映像が最期となりました。
象嵌に中に更に象嵌を入れ彫崩しで創り出しています。そこに使う微妙な色合いの貴金属地金までも作っていました。江戸時代の名品のようでした。
とても現代人には及ばない文化財級の風合いに伝統彫金の奥深さを垣間見ました。とても藤原氏の真似さえできません。
それで私は古き伝統的技法を今に生かしたモダンで洗練した作品へのデザイン創始に取り組むことで藤原先生への手向けの花にしたいと思っております。
ご冥福をお祈りいたします。
笹百合時計マリールイーズを納品致します。
笹百合時計は日本固有種の笹百合をモティーフとし、上下に取り付けたユリ花を象ったオーナメントが特徴の美しい婦人用時計です。
可憐で可愛らしいオマージュ作品は、日本の伝統技法を役立て、ハンドメイドの味わいを存分に引き出せた比類のない一品に仕上がりました。
100年後も新鮮で色褪せないデザインで製作もワクワクしながら進行します。
静岡市の山西宝石㈱さまから製作依頼を2019年2月に受けて製作に入ったのですが、18KWG製の外装の鋳造が芳しくなく2度やり直しをしたために半年以上の遅延となりました。山西氏には正直に品質不良をお伝えし謝罪しました。
この際に加工段取りを徹底して見直しさせていただく猶予を頂けたことに感謝申し上げます。完璧に近い仕上がりです。
ガラス外径14㎜×17㎜の楕円形の小型で可愛い作品で5型のマリールイーズの中でも最も人気のあるロングセラーです。少女の陽気な可愛らしさを彷彿とさせる表情なので オマージュ と呼んでいます。
飲み込んでしまいたくなるような風合いでしょう!でも食べられません。
支給された天然ピンクダイヤモンドを上下に取り付けたユリ花紋のオーナメントに彫留めしています。
ケース全体を梨地仕上げにしたのは、ケース上に唐草紋を彫金しその彫跡の光と梨地の対比を強調するためでもあります。 ですが百合紋オーナメント上のミラーはダイヤモンドの輝きと相性が抜群です。
古いと思われてきた古典的な彫金やオーナメントも新しいデザインの創造のために役立ちました。時代を経過してきた味わいも創出されました。でも新鮮!
はんなりとした品を身に付けることはセンスをヴァ―ジョンアップし審美眼が磨かれます。この眼は日頃に生かせます。そんな機会の訪れを願っております。
この度の仕様は金属バンドを取り付けましたが、横棒の取り外しで革バンドにも代えられます。後日革バンド仕様も公開いたします。
ムーブメントは日本製クオーツムーブメント内蔵。電池寿命3年。生活用防水。 サフャイアガラス。ネジ、竜頭、バンド、中留めとも18KWG製。裏蓋固定はねじ止めで電池交換も楽しく行えます。
文字板にはローマ数字を入れましたが、この他にアラビア数字とイニシャル文字板等があり現代のファションへの調和も多様に行えるものと思います。
(写真の笹百合はこの冬、土の下で春の到来をじっと待っています。)
作品のお問い合わせ https://www.yamanishi-houseki.jp/
山西宝石㈱ 静岡市駿河区小鹿1-13-2 電話054-281-5454
五月女 ニーザー アレクサンダー氏が日本の木造民家に興味を持っている様子から思い出し、何回か宿泊させて頂いている奈良県宇陀市のゲストハウス 「奈の音」をご紹介致します。
歴史ある古民家を活用するゲストハウスですがバス、トイレは最新式で清潔かつ快適です。
宇陀市の菟田野地区に伺った時に宿泊したゲストハウスですが、元は醤油蔵元の家で上質な天然木をふんだんに使い建築されたので風格までも浸み込んでいる和風建築と思いました。
解体するには忍びないと思われた前さんご夫妻が購入されて修繕され蘇りました。外観が堂々とした木造建築でしたので宿泊してみたいと思い申し込んだのですが予想した通り素敵でした。こんな時はニヤッとします。
屋根下に何気なく置かれた大型の壺を見、土間を渡りながら中に踏み入れますと、襖にはヒノキの一枚板、土蔵の扉は厚み30㎝、荘重な作りでこの土地の古の賑わいを肌で感じることが出来ます。天然素材の内装は古さを全く感じないどころか色褪せていない。
内装に見合った外観は瓦の載ったむくり屋根、むしこ窓との調和は伝統ある商都にきた風情を呼び起こします。
これだけのものを今建築すれば何億円かかるだろうと思われますが、この天然素材は揃わないだろうし、それだけに補修しながら長く利用したい気持ちになります。
木造とはいえ用材の樹齢に等しい年数の利用が可能であること、それが木材の有意義な活用になると故西岡常一氏の口伝にあります。
宇陀は人麻呂の万葉秀歌が詠まれた地です。阿紀神社に万葉歌碑があります。
安騎の野に 宿る旅人 打ち靡き 眠も寝らめやも 古思ふに (万葉集1-46)
「奈の音」に宿泊する更なる楽しみは写真のような朝食です。上品です。
年季の経た江戸時代ものと思われる本物の漆膳に用意された茶粥は色と異なり味は淡泊ですが横に添えられた奈良漬と一緒に食するとにんまり美味。健康的。
茶粥は土鍋からお椀によそった写真です。ご馳走さまでした。
今年も訪れた折にはお邪魔しますが宜しくお願いいたします。
SBCラジオ「信州うわさの調査隊」 のパーソナリティーの土橋桂子さんから取材依頼の連絡がありその後工房応接室で2時間程の話を致しました。
令和元年の節目に合った万葉時計を製作している小生への取材でしたので10月にリリースした作品を観てもらえるように用意してはありましたが、土橋さんの存在感で流れに任せて自然に話が弾み、気がつけばかなりの時間が経過していてモノをお見せすることも忘れてしまったのですが、創作への端緒や意気込み、そして作品の理念もお伝えできたと思います。(放送は12/20済)
際どい発言もあったと思いまして(そこはきっと編集されるだろうと思っていましたが)そこの部分は削除されず、冷や汗をかきました。放送後に反省のメールをお送りしたのですが、土橋さんはいたって気にされない様子でした。
彼女の百戦練磨のパーソナリティーの風格を察知しましたから、私も歯にものが挟まった言い回しを止め生々しい発言となりました。
日頃から自国の工業デザインへの不信感を覚え、もっと美しいものが何故出てこないかと日々感じますから、根底に 怒り を覚えているからです。
本来の日本民族は 省略と誇張 のバランスに秀でているはずと思っております。それは江戸絵画を観れば、特に北斎の富嶽三十六景をみれば絶妙な構図と不要物の省略、主役の誇張へのセンスは現代も参照になります。とはいえ筆さばきは達人です。
練達を経た高度の技能の大切さもひしひしと伝わります。
画像はありませんが後日に10月のリリース作品を公開いたします。 この作は黒外装に白顔のツートンによる味わいある秀作です。 この作をモデルにして2021年には頒布作品を製作いたします。
この度の機会は画像や写真を見せずともラジオ特有の「言葉」だけで伝える面白さや楽しさ、そのための工夫への拡がりを認識できましたこと、土橋さまに御礼申し上げます。
有難う御座いました。
12月10日に南信州の売木村のうるぎ国際センター支配人をされている、 五月女 ニーザー アレクサンダー氏(ALEX)を訪ねました。 売木村へは諏訪から120㎞の距離でしたが、中央道を松川インターで降り一般道を走りました。
愛知県と長野県の県境に位置することを自覚して行けば良かったですが、南信州は初訪問で飯田市の近くとの印象でしたし平地との思い込みは間違いで予想に反して平地は少なく凹凸の土地柄で西日の当たる斜面に民家が軒を並べている光景はそこを訪れたたくなる情景の阿南町を過ぎ151号の国道を千石平の道の駅を右折し売木峠を越えて売木村に到着します。
村役場の海抜が850mの高地ですが周りの山並みが穏やかであるのでその海抜の高さを感じません。途中にささゆり荘の温泉施設が眼に入ったのでこの地区には多くの笹百合が有るに違いない、と予想したのですが、売木小中学校の校庭脇斜面には下伊那農業高校の生徒による繁殖活動で夏には多くの花弁をつけるそうです。
目的はマルチリンガルのアレックス氏によるバッハ作曲ドイツ語の [Jesus bleibet meine Freude,] bwv.147 の発音を録音し指導頂くことでした。彼はベルギー生まれでドイツ国籍です。
この名曲を原曲で覚えようと決心し、母国の人の発音に接しておきたいからです。 Kraft の発音は特に参考になりました。私の発音は英語の発音だと指摘されまして コォラフト の発音に近いと思いました。Jesusは今のドイツでは使われなくなった古語とのことです。
しっかりと彼の発音を録音し繰り返し聞いていますが、曲に乗せると語尾が聞き取れない変化が起こります。
アレックスに故郷はどこですか、と質問しますと敢えて言えばEUと答えてくれました。ご両親が国を異にするバイリンガルのご家庭に生まれたので息子に聞かれたくない時にはご両親が英語で会話をしていたのだそうですが、ある時その英語を真似たら(意味は判らなかったが)判ってしまっていると叫んだといったのだそうです。
聴力が素晴らしいし、言語の微妙な発音の相違を聞き分けられていることが特殊な能力と思いました。
アレックスが愛知県で働いていた時、バイクで国道151号のツーリングに良く出掛けられて売木村にも来たのだそうです。
現在は売木村の地域おこし協力隊としてうるぎ情報発信オフィスのインバウンドを担っておられます。 築100年の古民家を改修されたうるぎ国際センター(UIC)ですが、アレックスは日本の炬燵と囲炉裏と木材の織り成す生活環境に特に興味を持たれている様子です。
私も同様に天然木材をつかった建築には憧れさえ感じますがこの点は彼と同様な価値感を持ちます。
何回か宿泊している奈良県宇陀市にある 奈の音 のゲストハウスを思い出します。ケヤキの一枚板の襖、30㎝もある土蔵の扉、むしこ窓、瓦のむくり屋根、 彼が見れば感動ものでしょう。